039:広

抱きとめてほしい気もする送り梅雨 腕を広げて閃光のさす(松原なぎ)

 今回気になったお歌たちです。(TB数132まで)

 取り上げさせていただきましたら伝書鳩か気合いでお伝えいたします。

 みなさまのお歌を読むと広がります、なにかが。そんな気がします。

 敬称略しますことどうぞ、あしからず。

■広すぎる部屋に住んでるせいだろう今年の風邪が治らないのは(星野ぐりこ)

 一人暮らしだとぞっとするほど独り言がおおくなります。
 風邪なんかだととくに。部屋にあるはずのぬくもりをみつけられません。

■明日急に黒い背広が必要とテレビの話のついでにきみは(ぽたぽん

 突然の日常にきりこんでくる黒いもの。
 「きみ」とのへだたりまで感じるような。

広東料理を眠くなるほど食べる夜の香港の街どこもが光(行方祐美

 結句が鮮やかー。香港行きたくなっちゃいました。

■手を繋ぐことで失う どの空もこんなに広いことがおかしい(久哲

 ね。

■眩しさに目を閉じたまま歓声を背中で聞いた5月の広場(暮夜 宴

 5月の太陽も楽隊もパレードも歓声も、平等にそそぐはずなのに背中越し。
 こっち向いてーって言いたくなります。 

■哀しみは少し遅れて滑り出す吊り広告をふいに揺らして(流水

 きょう電車の急発進でびっくりするくらい飛んでたお嬢さんがいたのですけど、あれは怒りって感じ。
 哀しみ。ふむ、そうだったのか。

■広げたら裸を自我を絶望を首都幾つかを飲み込むシーツ(間遠 浪

 寝具はやさしくあるべきなんです。



 今回気になったのは広さを使って狭さをうたうお歌たちだったように思います。
 わたし自身の器の狭さも感じますが、短歌ならではの拡散と収斂の威力を感じました。