さくら、水底

 
 サカクラさんと新緑を浴びにゆくはずだったのに
 あんまりふかくに来てしまったのか
 春を黙殺して汽車は遠ざかってゆく

 シロツメクサの花かんむりして
 かげおに
 あやとり
 紙風船

 さくら、散る
 ただ、散る
 わたしの髪はそよがないのに

 のんびり行けばいいよ、笑うサカクラさんの背中は
 あんまりわたしがさぐるので
 羽換えの季節にすっかりうす暗いんだった

 飛ばなくたっていいけれどほどかれたい
 はなたれたい
 貝殻のふり
 紅い糸
 小指をからませながらのつぶやき

 ほどかれたいって、なにからですか
 はなたれたいって、なにからですか



  あ、南風、



 レールをゆらす
 はるかげろう

 いっせいに空へむかうとりどり、紙風船

 サカクラさん、
 はなたれてほどかれて
 あれはでも空ではないのです
 そんなの
 かなしくはないですか
 さみしくはないですか
 
 四葉のクローバー
 しあわせの形
 ねぇ、わたし、さらわれたくないものばかりなんです


 サカクラさん
     サカクラさん サカクラさん
 のびゆく影はおいかけて
 おいかけても、かすみばかり



さくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくら
 さくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくら
さくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくらさくら

                                      さ 
                                       く

                                           ら


 貝殻に耳をあてればそれはそれは、碧の水底